一臨床一
広範な前癌病変から多中心性に発生したと
思われる口腔癌の1例
芳澤 享子,野村 務,河野 正己,
新垣 晋,中島 民雄
新潟大学歯学部口腔外科学第一教室
(主任: 中島 民雄 教授)
抄録:広範な前癌病変から口腔粘膜癌が多発したと思われる症例を経験したので報告する。症例は70才,女佐。頬粘膜にしみる感じがあるとの主訴で当科初診した。初診時に右側頬粘膜から舌側縁にかけて広範な白色病変を認めた。臨床診断は扁平苔癬であったが,病理診断は上皮異形成であった。その病変は時間の経過とともにその範囲が拡大し,表面性状も赤色に変化した。6ヶ月後,病変の範囲内の下顎歯肉に,生検にて扁平上皮癌と診断された1次癌(T2N0M0)が出現し,下顎骨区域切除術,顎下部廓清術を施行した。その9ヶ月後,2次癌(T2N0M0)が右側口底に認められ,腫瘍切除術を施行した。その2年後,右側舌背後方に3次癌が出現し,頚部リンパ節転移も認められ(T1N2bM0),腫瘍切除術と全頚部廓清術を施行した。その1年半後,癌は数カ所に転移し,その制御が困難となり,患者は死亡した。本例では,いずれの癌も扁平上皮癌であったため,広範な前癌病変から多中心性に癌が発生したと推測された。
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