一臨床一

両側性多発性顎下腺唾石症の1例
加納 浩之,横林 敏夫,清水  武,五島 秀樹
長野赤十字病院口腔外科(主任: 横林 敏夫 部長)


 抄録:唾石症が両側性に発生することは少なく,顎下腺唾石症例の2%程度である。さらに唾石の個数についてみると,両側性唾石症の多くが,左右1個づつの計2個のものが多く,多発性に発生するものは稀である。
 今回我々は,両側性多発性に発生した顎下腺唾石症につき,3年4か月間の唾石の数,大きさ,位置の変化を観察することができたので,若干の考察を含めて,その概要を報告する。
 患者は78歳の男性で,左側顎下部の腫脹を主訴に平成5年1月19日,当科を受診した。X線写真にて,右側顎下腺腺体相当部に8個,導管開口部付近に10個,左側顎下腺腺体相当部に1個,導管開口部付近に2個の唾石と思われるX線不透過像を認めた。消炎療法にて症状が消失したため,患者の都合で来院せず,唾石の摘出は行わなかった。その後,症状はなかったが,平成8年4月頃より両側顎下部に腫脹が出現するため,同年5月2日,当科を再診した。X線写真にて,右側では顎下腺腺体相当部に6個,導管開口部付近に3個の,左側は顎下腺導管相当部に2個の唾石様不透過像を認めた。初診時のX線写真と比較すると,右側では,腺体相当部のものは個々のX線不透過像が大きさを増し,また癒合したと思われるものもあり,数は6個であった。また,導管開口部のものは,7個は自然排出したと思われ,3個のみ認められた。左側では初診時に腺体内にあったと思われる唾石が,唾液の排出に伴い導管内に押し出され,もともと導管開口部付近にあった1個と癒合し,3年の経過を経て棒状のX線不透過像を形成したと思われた。全身麻酔下に,右側は口腔外より顎下腺摘出術,左側は口腔内より顎下腺唾石摘出術を施行した。術後の経過は良好で,再発は認めない。
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