一臨床一

歯性上顎洞炎から大脳縦裂間
硬膜下膿瘍を発症した1例
斎藤  了,笠井 郁雄,大西  真*
立川メディカルセンター立川綜合病院歯科
(主任: 笠井 郁雄 医長)
*長岡赤十字病院歯科口腔外科
(主任: 大西  真 部長)


 抄録:近年,抗生物質の発達により,歯性感染や歯科処置による頭蓋内合併症の報告は少ない。しかし,副鼻腔炎によるものは,最近また増加傾向にあるという報告もあり,頭蓋内合併症の感染源として念頭に置くべき疾患の1つである。また,その感染経路に関しては隣接組織を介して直接的に,あるいは血行性に波及すると考えられているが,断定することは困難なことが多い。
 今回,我々は,歯性上顎洞炎から血行性に硬膜下膿瘍を発症したと考えられる1例を経験したのでその概要を報告する。
 症例は,25歳男性で,前頭部頭痛,左側眼瞼部腫脹と発熱を主訴に受診した。急性汎副鼻腔炎の診断にて耳鼻科に入院し,化学療法が開始された。歯性の疑いにて当科を紹介され,X線所見より歯性上顎洞炎からの波及と診断したが,嘔吐,痙攣,意識障害を生じ,耳鼻科から脳外科に転科した。脳血管造影にて外大脳静脈における血栓性静脈炎と診断され,炎症が副鼻腔から頭蓋内へ血行性に波及したと考えられた。抗生剤を変更するも,急性症状は消退せず,当科にて上顎洞ドレナージを,耳鼻科にて副鼻腔根本手術を施行した。しかし,意識障害が続き,MRIにて硬膜下膿瘍が確認されたため, 脳外科にて開頭ドレナージ術が施行された。その結果,膿瘍は消退したため,原因歯を抜歯した。その後,後遺症もなく軽快,退院した。
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