パノラマX線写真における上顎部及びその周辺構造の読影・診断に関する今日的課題についての考察
その2:パノラマ写真の読影手法の確立のための検討と考察
中山 均
新潟大学歯学部歯科放射線学講座
(主任:伊藤寿介 教授)
抄録:
【目的】本報告の「その1」で示したような症例に対する不十分な画像診断がどのような理由によってなされたものであるか検証し,またパノラマ写真に対する一般歯科医や歯科学生の関心の動向,読影上の問題点を探り,パノラマ写真に対するより確実な読影手法を確立するための方向性を検討する【対象と方法】上顎部及びその周辺に悪性病変のあるパノラマ写真を用い,学生や研修医を対象として2回の読影実験をおこなった。2回目の実験では,一部の集団を除き,パノラマ撮影の原理や第1報で示した「特に重要な構造」を記載した簡易資料を与えた。【結果】読影実験の第1回日では,異常所見が明らかな場合でも検出率は低く,第2回日では,簡易資料を与えなかったグループを除いて成績は向上した。しかし各構造別に成績を見ると,「洞底」などの異常についてはよく検出されたものの,「硬口蓋」「頬骨突起」「翼状突起」などについては検出率は低く,簡易資料が与えられた第2回目の読影においても,特に後2者に対する成績の向上はわずかにとどまった。【考察】日常的な関心の高さが「洞底」の異常に関する検出を容易にしていると考えれば,症状の有無に関わらず,日常撮影されるパノラマ写真において,「その1」であげたような構造を常に確認すべきである。それは潜在的な悪性病変の検出のみならず,これらの構造に関する描出像の差違や変異の把握につながり,ひいては上顎部及びその周辺のパノラマ診断能力の向上にも寄与すると考えられる。