下顎枝矢状分割術術後の長期下唇知覚麻痺に関する研究
―第2報:CTによる下顎管の位置の検討―
鍛治昌孝,大橋 靖,武藤祐一
新潟大学歯学部口腔外科学第二講座
(主任:大橋靖 教授)
抄録:
下顎枝矢状分割術術後の長期下唇知覚麻痺とCTによる下顎管の位置との関連について,下顎枝矢状分割術施行59名の下顎枝計103例を対象として検討した。CTは軸位断画像(スライス厚2mm,スライス間隔4mm)を用いた。画像の評価は下顎孔直下より6スライスについて行い,下顎枝頬側皮質骨内側と下顎管周囲骨硬化部との間の接触状態により,両者が離れている遊離型,単に接触している接触型,頬側皮質骨に下顎管周囲骨硬化部が融合した融合型の3型に分類し知覚麻痺との関連を検討した。
結果;
1.知覚麻痺残存率を接触形態の型分類別にみると遊離型では19%に過ぎないが,接触型では64%,融合型症例では84%となった。また,接触型では,下顎管と下顎枝頬側皮質骨内側との距離と知覚麻輝残存率との間に関連は認めなかった。
2.接触型,融合型症例について,それぞれの形態を認めたスライス数が1スライスのみの症例では8例中4例(50%),2スライスの症例では7例中5例(71%), 3スライスの症例では5例中4例(80%),4スライスの症例では4例全例(100%),5スライスの症例では4例中3例(75%),6スライス全部に亘る症例では5例全例(100%)に知覚麻痺を認めた。
3.1年以上知覚麻痺残存症例については,融合型でより長期で程度も強く知覚麻痺が残存している傾向がみられた。
以上の結果より,下顎枝矢状分割術を行うにあたっては,術後の長期知覚麻痺を回避するために術前CTにより下顎枝頬側皮質骨内側と下顎管周囲骨硬化部の位置,特に接触形態を精査することが非常に重要である。