下顎枝矢状分割術術後の長期下唇知覚麻痺に関する研究
―第1報:多変量解析による諸因子の検討―
鍛治昌孝,大橋 靖,武藤祐一,八木 稔*
新潟大学歯学部口腔外科学第二講座
(主任:大橋 靖 教授)
*新潟大学歯学部予防歯科学講座
(主任:宮崎秀夫 教授)
抄録:
下顎枝矢状分割術術後の大きな合併症としての長期下唇知覚麻痺に影響を与えている因子を明らかにするため,術後1年での知覚麻痺と知覚麻痺残存に影響を与えていると考えられる7因子(年齢,下顎管の位置,手術時間,分割方法,骨片の移動量,固定方法,術者の経験年数)との関連について統計学的に検討したので報告する。
対象は,当科で1985年より10年間に両側下顎枝矢状分割術による下顎骨後方移動を行った症例のうち資料の整備した75名150例(両側下顎枝を各1例とする)とした。
結果:
1. 単変量解析:正面頭部X線規格写真で計測した下顎管の位置に関する因子と知覚麻痺残存とに極めて有意な関連が認められ,下顎管が下顎枝外側に接近することで知覚麻痺残存率が有意に上昇することが示された。一方,年齢,手術時間,分割方法,骨片の移動量,固定方法,術者の経験年数と知覚麻痺残存との間に有意な関連は認めなかった。
2.多変量解析:目的変数を知覚麻痺の有無,説明変数を7因子としロジスチック回帰分析を行った結果,下顎管の位置に関する因子はオッズ比の95%信頼区間は0.80−0.93 (P=0.0001)となり,他の因子に比し極めて強い関連が認められた。