上顎乳切歯に露髄を伴う重度の
形成不全が認められた2症例


佐野 富子,河野 美砂子,富沢 美恵子,野田  忠,米持 浩子*
 新潟大学歯学部小児歯科学講座, * 新潟大学歯学部口腔病理学講座


抄録:
 乳歯は母体内の比較的安定した環境下で形成されるため,永久歯に比し形成不全歯の頻度は低いとされている。今回我々は, 1歳11か月(症例1)と2歳11か月(症例2)の男児において,歯冠部歯髄に及ぶ重度の形成不全を伴った乳切歯の2症例を経験したので報告する。
 症例1では,A」の唇側歯頸部歯肉は円形に膨隆し,さらに三角形に伸びてA」唇側面を覆い歯の陥凹部と癒着していた。同部の歯肉を切除したところ,A」唇側面で歯肉と歯髄との交通が認められた。A」には生活断髄を行い予後良好である。病理組織学的には,歯髄との交通部に肉芽組織化した歯小嚢組織が認められ,象牙質小片およびエナメル基質からなる異形成歯質断片が多数含まれていたことから,歯冠が吸収されたのではなく,歯胚の部分的欠損による歯冠形成不全であることが示唆された。
 症例2では,┗Bは2歳11か月時にようやく萌出を開始したが,歯冠は大きく欠損し,口蓋側から歯冠遠心部に伸びた歯肉弁状の軟組織が歯冠切縁側のほとんどを覆い,一部歯面と癒着していた。同部の歯肉を切除したところ,歯冠中央の一部で,わずかな歯髄との交通が認められた。┗Bには生活断髄を行い,予後良好である。病理組織学的には,切除歯肉に慢性炎症細胞浸潤を伴う肉芽組織が認められたが,歯髄様組織は明らかではなかった。


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