基底細胞母斑症候群の1例
−20年間の経過について−
新美 奏恵、星名 由紀子、鈴木 一郎、中島 民雄
新潟大学歯学部口腔外科学第一講座(主任:中島民雄教授)
抄録:
基底細胞母斑症候群は皮膚病変として掌蹠の小窩 、二分肋骨、両眼 隔離、前頭及び側頭の突出、多発性顎嚢胞や他の様々な異常を伴う常染色 体優勢遺伝の疾患である。本症候群で発生する顎嚢胞はほとんどが歯原性 角化嚢胞(以下OKC)である。今回我々は20年に渡って観察した基底細胞母 斑症候群の11才の男児の1例を報告した。初診時現症として両眼隔離、鼻根 の低下、前頭及び側頭部の突出、下顎前突を認めた。胸部X線で肋骨の棍棒 状変化、第6頸肋骨の残存を認めた。パノラマX線写真では上下顎に多発性 の嚢胞様骨透過像を認めた。同様の所見は患者の父親と兄にも認められた。 全ての嚢胞に対し開窓術、摘出開創術あるいは摘出一時閉鎖術を施行した。 20年の経過観察中に二つの嚢胞に3回の再発と3回の新たな嚢胞の形成を認 め、そのうち1つは初診から19年目に発見されたものもあった。病理組織診断 はいずれも歯原性角化嚢胞であった。開創後の増大は上皮島の認められた 二つの嚢胞で認められた。病理組織学的にはすべての嚢胞は歯原性角化嚢 胞で3個の嚢胞の嚢胞壁に上皮島が認められた。基底細胞母斑症候群の患 者においては、顎嚢胞の再発率が高いこと、新たな嚢胞の形成が認められる ことなどから長期に渡る経過観察が必要と思われる。